2022/03/17 Thu
【館長ブログ】絵具のしたたり(03)
英雄とヒーロー
昔、ある識者から英雄とヒーローの違いについて教えて頂いた事がある。
ここでは仮にF氏と呼ばせていただく。
ヒーロー(Hero)は日本語訳すると英雄となり、主に小説や漫画、映画等に登場する男性主人公を指す。
それならどちらも同じ意味ではないか?
と思うかもしれないが、実はそれらが生まれてくる背景が違うのだとF氏は言う。
ヒーローは地球の平和を脅かす異星人や怪獣らとその超人的な能力を駆使して敢然と立ち向かう。
漫画やアニメ、特撮などから生まれた、ウルトラマンや仮面ライダーを代表する超人たちであり、空想から生まれた子供たちの憧れである。
一方の英雄はと言うと、世が乱れ、人々が抑圧され苦しむ戦乱期を主に、時代の求めに呼応し、世の中を平定するために現れた人間を指す。
三国志の曹操、孫権、劉備玄徳、諸葛孔明などの名将・知将をはじめ、日本でも源義経や真田幸村など、戦国時代の武将にもそう呼ばれた人物が何人もいる。
もちろん、門切口調ですべてが全て、そうだとは言わないが、大きくは、そう類別することが出来るとF氏は言うのである。
私はそれを聞いて、なるほど。とうなずいた。
F氏の言わんとすることが、
『空想世界において、人間が変身し超人となり、その超能力を持って戦うのがヒーローであり、かたや現実世界においては、あくまでもただ人間が、その持てる才能を全て駆使して立ちあがったのが英雄である。』
と、言いたいのだと気づき腑に落ちたからである。
ただ、この話には不吉な暗示が示唆されている。
過去の歴史を紐解くと、"独裁者"と言われた人間も一時は救国の"英雄"と称えられ、その個性と才能を民衆が猛烈に支持し、その果てに他国を脅かす戦争を起こしては多くの人々の命を奪ったと言う事実である。
空想の世界でのヒーローは、巨大怪獣や怪異な怪人がダムを壊したり、ビルを破壊したりするのを阻止し、世界の平和を守るために敢然と悪に立ち向かうが、彼らは決して戦争のように”罪のない人々の命を大量に奪うような事はしない”し、逆に侵略者から人々の生活や命を守るためだけに戦うのである。
平和と戦乱。
ヒーローと英雄には確かにF氏の言う背景の違いがあり、英雄の出現には必ず血生臭いリアルな悲劇がまとわりつく。
ヒーローを求める背景には平和がそこにあり、英雄を求める時には社会の不安定さがあるとするならば、ヒーローを望んでる社会の方が遥かに罪はなく平和なのである。
戦後、高度経済成長時代は空想のヒーローに扮した子供たちが、夜店で買ってもらったセルロイドのお面をつけて町のあちこちを走り抜けていた。
平和な時代だったのである。
私は今、こうしてF氏のことを思い出しながら、子供たちがなんの不安もなくヒーローに憧れる社会が全世界に訪れたらいいと切に思う。
英雄の出現に伴う戦乱などは無い方が良いに決まっているのだから。
光臨アートギャラリー初代館長
佐佐木あつし